独自のコミュニティーが生むクール
京都だけでなく、日本全国で建築を手がけてきて思うのは、他の都道府県には京都のような「町内単位のコミュニティーが少ない」ことです。例えば、京都は路地と呼ばれる細い道がたくさんあって、その周辺や奥にも住宅や商店がある。路地自体が独特のコミュニケーションを作る場所になっているんです。地域の人たちが主体になって実施される地蔵盆などの行事は、京都では盛んに行われますが、他ではあまりみられません。小学校の教育特区などの試みや、祇園祭の保存も、大きすぎないコミュニティーだから、目標達成に向かってひとつになって動きやすく、意思疎通ができるのだと思います。
バブル時期、高度経済成長期の頃は、大きな予算で大きなイベントを仕掛けてきたけれど、経済的に厳しい今は、たとえ小さくても自由度の高い活動が求められています。そんななか、はるか昔から強い結束と活動力をもっていた京都のローカルコミュニティーは、既に先へ向かっている。古都の伝統を守りつつ、互いに高めあい、文化を育てるクールさを常にもっているんです。そして、さまざまな場面で、町や町の人が多くのことを教え、次代に伝えていく。
僕が個人的に「町の師匠」と仰ぐ染色家の樽家紀治さんは、まさにそんなコミュニティーの中で出会った方です。彼のつくる着物は昔ながらの技術を使いながらもモダンでクール。伝統的な町の暮らしや文化、遊びなど多くのことを教えてくださった「粋な大人」のお手本です。
海外にも通用する京都スタイル
もうひとつ僕が仕事を通して実感するのは、京都で生まれ育まれたシステムやビジネスモデルは、おそらくヨーロッパなど海外どこにあっても通用するだろうということ。その代表選手が、祇園のsferaでありsferaが創るオリジナル商品です。すでに、東京ミッドタウンやミラノでも発表されているので、ご存知の方も多いでしょう。椴金や指し物といった伝統の技術と斬新な発想から生まれるSferaの商品は、クリエイティブ・ディレクターでもある真城成男さんの感性が生かされた、世界に認められる逸品です。
3.11があり、人々の大切なものが流され奪われました。これからの建築は、地震が起きて町が崩壊しても、何かしら人々が心のよりどころにできるものでなければいけないと思います。建築家として、そんな建物を提案したい。また京都の「文化やお祭りと密接につながる街づくり」をモデルに街を考えていくことが、これからの時代をつくる僕たちの使命だと深く感じています。